第9回  小さな企業のメリット-3

1. 潜在マーケットの開拓
(1) sightseeing(観光ツアー)からsight doing(体験型ツアー)の時代へ
 旅行業界では、ただ見てまわるだけのツアーではなく、体験型・参加型の企画でないと売れないと言われている。
 すでに消費者は、A.H.マズローの『欲求の階層』で言えば、初期の①生理的欲求;食欲,睡眠,性欲、②安全性欲求;住居,衣服,貯金 というレベルが満たされ、次の③社会的欲求;友情,協同,人間関係、④自我欲求;他人からの尊敬,昇進、⑤自己実現欲求;潜在能力の最大限の発揮 というレベルへ移行したと解釈してよいだろう。
 高度な欲求によって動機付けられるようになると,もはや生理的欲求や安全性欲求などの初期的欲求は動機付けの要因にはならなくなる,という。
 これが現状の消費者の状況と考えれば、ただ価格だけのチラシ、売り方に反応しなくなった消費者の行動パターンも理解できるだろう。

(2) 事業展開の可能性
 図表は、事業展開の可能性を整理したものである。
表頭(横軸)は、物が変化していく様子(製造工程、ライフサイクル)を『企画・計画・設計』『素料・資材調達』から『素材・原材料』『部品・二次加工品』『製品・でき上がりの姿』、..というように整理したものであり、ビジネスとして取り扱う商品がどのようなレベルにあるものなのかを見るためのものである。
 一方、表側(縦軸)は、ビジネスが対象としているものを『物』『知識・技術・ノウハウ』『機能代行』『情報・ビジネス』『場』というように分けて整理している。
この事業展開マトリックスから分かることは、ビジネスの可能性はマトリックスが示すようにたくさんあるにも関わらず、小売業が取り扱っているのは『物中心の販売』の内『素材・原材料』から『製品・でき上がりの姿』『道具・工具・副資材』までというごく限られた範囲の商品でしかないということである。
 言い方を換えれば、小売業(ある意味ではメーカーも含めた旧流通構造を形成する企業)は『物売り』にこだわるあまり周囲の状況変化が全く見えず、マーケットニーズ(可能性)のウェイトが他に移っているにも関わらず、限られた範囲の中でしか活動せず、その狭い範囲内で無意味な過当競争を繰り広げていることになる。
 だからこそ、こんなに店も商品も溢れているのに消費者を満足させることができない状況が続いているのだろう。
 未開のマーケットはたくさんある。消費者の志向・欲求が『物の充足』から『状態・状況の充足』へと変化していることさえ理解できれば、マーケットの持つ可能性を理解することは容易である。
 しかし、大きな企業では、これまで形成してきたビジネスを簡単に切り替えることができない。このようなマーケットチャンスは、小さな企業に与えられたアドバンテージと考えるべきだろう。

2.未開のマーケット
(1)未開のマーケット
 基本的にマーケットの可能性は『消費者が困っていること・不便に思っていることの解消=solution(問題解決)』にある。
 これだけ店も商品も溢れている時代でありながら、消費者が困っていること・不便に思っていることは一向に減る様子がない。むしろ、多くの物、情報に囲まれる生活は、昔よりも複雑であり、普通の生活を送るだけでもはるかに多くの知識や知恵を必要とする。類似店舗、類似商品は溢れ、商品はさまざまな価格(一物多価)で販売される。
 よくテレビで商品のチラシ価格を調べて最適な購入価格を設定し、ひじょうに低い生活費を実現している主婦の特集をやっている。
すでに類似店舗、類似商品、一物多価の商品価格は、消費者にとって『何時、何処で、何を買うことが最善なのか?』という最も基本的なことさえ分かりにくくしている。『困っていること・不便に思っていること』の重要な一つである。
 おそらく、このような情報を提供するだけでなく、実際に最も安い価格で必要な商品を買い集める代行業ができたら、消費者の猛烈な支持を受けることは間違いないだろう。単に買物だけでなく、家計支出全てをカバーするものができるかもしれない。赤字を垂れ流してNB商品を売るよりはるかに有意義なビジネスと言えるのではないだろうか。『知識・技術・ノウハウ中心のビジネス』あるいは『機能代行(代わりにやる)ビジネス』と言ってもよいだろう。

(2)未開のマーケットの整理
 未開のマーケットはたくさんあるここではその一部を整理してみる。
①知識・技術・ノウハウ中心のビジネス
主婦が困っているのは、毎日の『おかず』や『収納』である。『弁当のおかず』『夕飯のおかず』の相談に乗り、 教えながら一緒につくるビジネスがあってもよい。仕事や趣味の世界だけでなく、一般的な生活(健康、食事など)にも高度な知識・技術・ノウハウが必要な時代である。
②機能代行ビジネス
 家事(掃除・洗濯など)を代わりにするという単純なものから、健康状態を考慮して食事や運動メニューを提案するような機能代行。素材の選択、仕入れから、下拵え、調理などを代わりに行うものなどプロが消費者に対して直接機能代行を行うもののバリエーションは限りなく考えられる。
③情報・ビジネスの仲介
 インターネットが発達し、個々の分野の情報。ビジネスが細分化すればするほど横断的にそれらを組合せることの意義は増す。価格.comのような価格比較サイトが支持されるのも、個人でカバーできなかった情報収集と情報比較ということを実現したからである。
④『場』を提供するビジネス
 以前から言っているように、食品スーパーの中に『○○さんの自慢料理コーナー』があってもよいと思っている。ビジネスにするまでではないが、本当に好きでやっている人達は発表する『場』を求めている。人口が減り、高齢化が進む(高齢者の単身世帯が増える)という状況を考えれば身近にある店が地域の『デポ』『コミュニティの場』になることの意味は大きい。

 市町村合併で行政が力をなくしている現状を考えると、このようなことに確実に取組むことができるのは、地域にしっかりと定着した小さな企業だけである。

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